伝える力・解く力(プロの型と定石が殻を破る)

伝える力が人生を豊かにする、解く力が道を拓く

#89 変化しないと成長できない

新しい技術や商品にすぐ飛びつく人がいる一方で、慎重な人もいます。一部の愛好家のために作った商品が、TVやSNSで拡散され、いつの間にか誰もが欲しがる商品になることもあります。

この顧客の変遷を研究したのが、スタンフォード大学教授であるベレット・M・ロジャースです。

 

 

イノベータ理論とは何か

 

ロジャースの「イノベータ理論」では、消費者を製品購入に対する態度で5つのタイプに分類します。

 

① イノベータ (革新者: 2.5%)

 新しいものに興味があり、経済的にも豊か。社会的通念にとらわれず独自の判断で新技術や新ノウハウを使い始めます。

② オピニオン・リーダー(初期少数採用者 : 13.5%)

 新技術に対し、主観的評価を仲間に伝え、新製品が社会に普及する素地を作り上げます。

③ アーリー・アダプター(初期多数採用者: 34.0%)

 オピニオン・リーダーが新製品を使用しているのを見て、初めて採用を決心する人々です。

④ フォロワー(後期多数採用者 : 34.0%)

 新しい技術やサービスの受け入れに慎重な人。初期多数採用者まで製品が普及するまで採用を見送る傾向があります。

⑤ ラガード(伝統主義者 : 16.0%)

 伝統的なライフスタイルを守る人々で、判断は過去の経験に基づいています。経済的には不安定な状態に近い人々です。

 

ロジャースは、スピードの差はあっても、少数のイノベータが採用することから製品普及が始まるとしています。次にオピニオン・リーダーが普及を促進し、フォロワーへと波及します。この時、累積の顧客数は、縦軸に顧客数、横軸に時間を取るとS字状のカーブを描きます。

 

 

顧客が戦略の変更を迫る

 

企業にとってイノベータ理論が意味するところは「自社の製品やサービスを市場に導入する際の初期ターゲットは、イノベータやオピニオン・リーダーだが、成長するにしたがって、ターゲットが変わり、求めるものも違ってくる」ということです。

 

例えば、インターネット通販で販売を開始したAI調理器が普及するようなケースを考えてみます。最初は、ネットで新しいものを発見し、モノも見ずに注文するチャレンジャーが顧客です。その良さが分かる知識と経験を持っているので、納品すれば自分たちで何とかします。使って高評価なら、口コミで広げます。

 

やがて、SNS等で発信力を持った個人が目を付けて、買い、発信するようになり、それを見たアーリー・アダプターが購入を始める訳です。結果、知り合いや利用者が身の回りに表れ始めると、フォロワーが動き出します。

 

ですが、フォロワーになると、当初のアーリー・アダプターとは製品に求めるものが違ってきます。操作の簡単さやデザイン、価格がより重要になっている可能性があるのです。もし、初期の成功体験を守ったとしたら、開発した企業でも、脱落する可能性があります。逆に言えば、後から参入しても、先行企業の先回りをして逆転の機会をうかがうことも可能です。

 

自社の戦略を変える必要がある理由がここにあります。自社も変化しないと、持続的な成長はできません。

#88 ニーズに応えて利益を上げる

 「どのような価値を提供すればターゲット顧客のニーズを満たせるかを探り、その価値を生み出し、届け、そこから利益を上げること。」

 マーケティングを初めて体系化したフィリップ・コトラーが定義する「マーケティング」です。マーケティングの世界では元祖的な存在であるコトラーは、続けてニーズ、ウォンツ、ディマンズの違いを次のように定義します

ニーズ、ウォンツ、ディマンズの違いとは

ニーズとは、「人間の生活において必要なある充足状況が奪われている状態のこと」である

ウォンツとは、「そのニーズを満たす特定のものが欲しいという欲望」である

ディマンズは、「購買能力と買う意思に裏付けされた特定の製品に対するウォンツ」である

 マーケティングは人間のニーズを満たそうとする活動を刺激し、その欲求を満たす手伝いをします。

どのような価値を提供すればターゲット市場のニーズを満たせるかを探り、その価値を生み出し、顧客に届け、そこから利益を上げる一連のプロセスがマーケティング活動です。

  空腹であるとか、楽に移動ができないといったニーズをマーケティングで満たすことはできませんが、空腹な時に様々な食べ物の中から「牛丼を食べたい」、リフレッシュしたい時に「温泉に行きたい」というウォンツを引き出すことはできます。

さらに、ウォンツ(欲しい)を持つ人の中から実際に買える能力と意思のある人を見つけ出し、アプローチすることによって、ディマンズを喚起する。これらの一連の試みがマーケティングなのです。

人を動機付ける欲求とは

 それでは人々のニーズはどのようにして生み出されるのでしょうか。

A.Hマズローは、人間は欲求(広義のニーズ)を持ち、それが動機となって行動する、そしてその欲求は低次から高次まで5階層をなしていると提唱しました。

① 食欲・睡眠欲などの生理的欲求

②  危険や恐怖から自分を守る安全の欲求

③ 集団や社会に属し、愛情や友情を満たしたいという社会的欲求

④ 他人から自分が優れていると認められたいという自我の欲求

⑤ 自分が持っている力を実現したいという自己実現の欲求

です。これらの欲求は①から順に満たされると上位の階層に欲求が移ります。

 まずは、顧客が持つニーズの構造的なレベルを把握しないと始まりません。極端な例で言えば、砂漠で飲まず食わずで過ごした人間が満足する食べ物と、SNSで「いいね」をより多く獲得したい人間では選ぶ食べ物は異なります。さらに、その食べ物を選んだことで、自分の洗練された趣味や生活をアピールしたいとなれば、格段とハードルが高くなりそうです。

 ニーズを把握できなければ、提供する製品やサービスが持つべき性能や特徴を検討することはできません。まして、ウォンツに影響を与え、ディマンズを喚起することは不可能です。

そこで、現象面だけにとらわれず、ニーズの背景も含めた本質を、深い洞察によって理解する必要があります。事象を分解して構造的にニーズを把握することが肝要です。

#87 どう市場ポジションを上げるか

 新しいビジネスを始める時は、どんな企業もゼロスタートです。大企業が新しい分野に入る時も、ベンチャーが創業する時も、市場的存在シェア(6.8%)以下からのスタートです。上位の企業だけでなく、顧客の観点から見ても「取るに足らない存在」から始まります。

 どうやって上に登っていくか。基本となる方法はふたつあり、その組み合わせで勝負します。

① 自分が上位になる市場を創る

 「自分で市場を創れば一番から始められる」です。例えば、「特別なビール」の市場を創るといったケースです。通常のビール市場では既存メーカーに刃が立ちません。そこで、プレミアビール、クラフトビールといった一部のカスタマーにフォーカスした製品を作ります。いわゆるニッチ(隙間)市場と呼ばれるものです。大手にとっては手間や費用がかかる割にはリターンが少ない市場です。しかし、その小さな市場でも、圧倒的1位になれば、その市場に関しては規模のメリットを発揮することができます。独占的シェアを持つことも可能です。小さな島を作って、その王になる。そして、その市場自体を大きくすることが第一の方法です。

② 下位企業の市場を奪う

 ところが、ニッチ市場だったものが、全体のビール市場の中で、11%を超える大きさになってくると、ビールメーカーとして「市場的認知」を獲得できます。顧客から認知され、勝負の土俵に登れる訳です。

 しかし、影響力はありません。群雄割拠のレベルであるシェア20%、影響を与えられる26%へと登って行かねば、いつ転落するかわからないのです。

 その時、勝負を挑むべき相手は、業界のトップ企業ではありません。シェアが30%以上ある相手は体力も蓄積も桁違いで勝負にならないからです。第一のターゲットは自分より小さい同業です。シェアが3%、5%の企業の顧客を奪ったり、事業を吸収します。小さくとも3つくらい取り込めば、シェア20%を越えます。20%になれば、シェア15%を持つ中堅企業をターゲットにすることも可能です。事業統合でもすれば、一気にシェア35%のトップ企業になります。

 勝てる勝負を積み重ねて、自力を上げ、階段を昇れば業界のトップになれます。もしくは、ニッチを巨大にするかです。ただ巨大になるには、既存の市場を取り込むことが必要なため、同様のことが起こります。

#86 ポジションを知り戦略を立てる

市場における自社の地位を知る上で、もっとも解り易い指標が「シェア」です。シェアを把握することによって、自社の地位が明確に解ります。それが適切な戦略策定の第一歩になります。当たり前ですが、シェア10位の小さな企業が、シェア1位で何十倍も大きい企業に力勝負を挑んでも勝ち目はありません。そこで、冷徹に自社の地位を教えてくれる指標を紹介します。

 

クープマンの目標値で自力を知る

 シェアによる市場構造把握の方法の一つにクープマンの目標値があります。米国の数学者クープマンは、市場内における各企業のシェアが持つ意味合いに注目し、シェアと市場推移の関連性を解析しました。その結果、シェアを見極めるポイントを以下の6つに分類しました。

 

① 独占的市場シェア(73.9%)

 市場の王様です。業界のルールは俺様が決める地位です。

 

② 相対的安定シェア(41.7%)

 2位との差によりますが、そう簡単には脅かされない地位です。下位企業のチャレンジに対して即座に対抗できる力があります。

 

③ 市場影響シェア(26.1%)

 業界の方向性を決めるに際して、一石を投じる影響力を持っています。時には重要な役割を担う地位です。

 

④ 並列的上位シェア(19.3%)

 2割で上位に入るいわゆる群雄割拠の一翼です。どこが頭一つ抜けて上に行くか、権利を有するも抜けていない地位です。

 

⑤ 市場的認知シェア(10.9%)

 この市場に存在するプレイヤーとして認知されるシェアです。購買時の選択肢として上がっても顧客に違和感がない地位です。

 

⑥ 市場的存在シェア(6.8%)

 市場で存在を認められるかどうかの瀬戸際のシェアです。これ以下になると「ごまめの歯ぎしり」どころか存在感がないシェアです。

 

 但しシェアの把握の際には特定時点でのシェアを把握するだけでなく、経年変化による推移にも着目する必要があります。自社や他社のシェア推移の把握によって、各企業の勢いを把握したり、将来的な予測が可能となるためです。

 このような市場における競合プレイヤーのシェアやその推移を多面的かつ構造的に把握することで、自社がどう優位性を獲得すべきか、進むべき方向が分かります。

#85 顧客視点で市場を定義する

 市場では様々な形で企業間や製品間の競争が繰り広げられます。その結果、常に変化するのです。従来の概念を当然と考え、特定市場に集中するだけでは不十分です。様々な業種の企業が参入し、多種多様な製品が次から次へと投入されることで、市場の形はますます複雑化し、既存の製品形態間や特定カテゴリー内だけでは通用しません。自社や自社の製品にとって、どの企業が、またどの製品が本当の競合相手なのかということを考えねばならないのです。

 このような環境下で、市場を定義するために必要なことは「消費者のベネフィット」に立脚して考えることです。

100%果汁オレンジジュースのケース

 例えば、果汁100%のオレンジジュースの新発売を考えます。直接的な競合製品は他社の100%オレンジジュースです。加えて、オレンジ以外100%果汁ジュースも競争相手です。

 ここで顧客の視点で市場を考えてみます。もし顧客のニーズが『果物味のジュース』だった場合には、顧客の選択肢はオレンジ以外の味(レモン、グレープ。バナナ、ピーチ等)に広がります。しかも100%果汁以外のジュース(例えば20%果汁のオレンジジュース)が入ります。競合企業には、清涼飲料水メーカーが加わります。

 少し発想を広げて「顧客が朝食時に取る飲み物の市場」と定義したらどうでしょうか。朝食時に飲むものには、お茶、コーヒー、紅茶、牛乳、スープ、味噌汁などが考えられます。更に、「気分をリフレッシュしたい時の飲み物」と定義した場合には、ビールやチューハイなどに範囲が広がるかもしれません。このように、ターゲットとする顧客の視点を起点にした考え方をすると、一見カテゴリーが異なるために関係のないように見えるものがつながり、攻略すべき市場の本質が見えてくるのです。

#84「市場」を評価する基準は何か

「この市場は有望だから参入しよう」と意見が一致したとしても、「なぜ有望か」という理由がメンバーの頭の中で一致しているとは限りません。人によって評価の観点がずれている可能性があります。

 「成長している」「競争相手が少ない」「自社が有利な地位にある」など、いくつかの評価尺度があり、総合的に評価が下されるべきです。偏った判断に陥らないように、評価の観点を整理します。

 

「ターゲット市場」を設定する

 参入の是非を語る前にやるべきことがあります。それは「ターゲット市場を設定する」ことです。成功するために自社の製品・事業が競争上最も優位を発揮できるセグメントを選択します。マーケティングは戦略的な投資活動です。ターゲット市場に、限られた経営資源を集中的に投入することで最大の効果を得なくてはなりません。

 設定時に考慮すべきポイントは四つです。

 

① 市場規模: 採算の合う規模かどうか、市場がどう変化すれば採算にのるのか。採算にのる規模があることが明白な場合は参入企業の数や実力を見極める必要があります。採算性が不明瞭な場合はその市場が将来どう変化するのか洞察する必要があります。

 

② 投資効果: 市場の開発・参入にどのくらいのコストがかかるか、どのくらいのリターンを見込めるのか。新規市場の場合は、市場機会を顕在化させるにはどのくらいの期間がかかるのか、短期戦か長期戦か等を予測します。

 

③ 市場への取り組み: 自社や自社の属する業界がその市場を参入するのか。新規市場であれば、いかに製品・事業を展開していくのか、他社の追随をいかに阻止していくかについて考慮する必要があります。

 

④ 自社のスキル・資源: 自社にターゲット市場に対応できるスキルや資源が充分にあるかを見極めます。他社に先駆けて先進的に取り組んだとしても、他社の優位なスキルや資源によって成果を奪われてしまっては元も子もありません。

 

 これらの観点のひとつに優れていることを理由に参入を主張する方もいるかもしれません。それだと議論が噛み合わないのです。意思決定者が同じ基準に立って意思決定を行うべきです。

#83 何を基準にセグメント化するか

顧客をグループ化して、ターゲット市場を設定するためには何らかの基準が必要です。結論から言うと「普遍的な基準」は存在しません。なぜならば、その市場の成長段階、参入しているプレイヤーの戦略、社会経済など外部環境の変化などの条件によって変わるからです。何より、何を基準にするかが、自社の独自性につながるからです。

回答者の属性が伝統的な基準に当たる

 但し、マーケティングの実務でよく用いられる基準はあります。例えば、顧客を対象にアンケート調査を行う時に属性に関する質問がそれです。その回答を使ってクロス集計などを行い、自社にとって価値の高い顧客のグループを切り出そうとするわけです。性別、年齢層、年収、学歴、職業、住んでいる地域などを思い浮かべて頂ければ、イメージを描けると思います。

セグメンテーションのための基準には、地理的・人口統計的属性といった外形的に明確なものから、顧客の心理的側面や行動的側面をフォーカスした基準まで様々なものがあります。

① 地理的変数 : 地理的変数は最も基本的で使用頻度の高い変数です。

居住地域、気候、都市化の進展度、文化、顧客の生活圏、自治体の規制範囲などが該当します。

② 人口動態変数: 消費者調査では定番と言って良いくらい使われている変数です。

年齢、性別、家族構成、職業、所得、学歴などが該当します。

心理的変数: 消費者の生活様式や性格等を基準にする変数です。

例えば、同じ予算で自動車を購入する時、セダンにするか、SUVにするか、スポーツカーに

するかは、 個人の生活様式に根ざした心理的な違いが影響していると考えます。

④ 行動変数 : 買い手の製品に対する知識・態度等に関する変数です。

具体的には、過去の購買状況、使用頻度、サイトへのアクセスなどがあげられます。

ネットの普及で何が変わったか

 ネットの普及により「行動変数」を把握し易くなりました。ネットサーフィンをしていると、サイトで検索したキーワードに関連がある広告が頻繁に出てくることに気付くと思います。これは「検索」という行動を手掛かりにターゲットを識別している訳です。

 ネットの普及以前は、限られた数のサンプル調査を行って、全体を推察する方法が主流でした。しかも、調査時点での断面を見るような感じです。その理由は、調査に掛けられるリソース(費用、時間、人員)に限りがあることです。

 スマホの普及でハードルが下がるとともに、トレースが可能になったことで、より正確に顧客の行動を推察できるようになったのです。